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大晦日の忘れられない出来事と神様のお雑煮

大晦日の忘れられない出来事と神様のお雑煮

2015.12.31 | 森下典子

幼いころ、居間の長押の吊り棚の上に「神棚」があったのを覚えている。高い吊り棚の上なので、よくは見えないが、白木でできた小さな神社のような建物が置いてあり、その左右に白い花立てが置かれ、緑の榊が立っていた。

 

私はその白木の建物に興味津々だった。建物の真ん中に小さな両開きの扉がある。中はどうなっているのだろう…。

 

いつだったか、

 

「あの戸を開けてみたい」

 

と言ったら、

 

「それはだめだよ」

 

「あれはね、神様のおうちだから」

 

と、父と母はなぜか顔を見合わせて笑った。

 

ふだんは特に何もしないけれど、年末の大掃除の時には、父が神棚をきれいに掃除して鏡餅を供え、元旦の朝には、お神酒やお灯明を上げて、「パン!パン!」と柏手を打った。

 

母は、台所で家族のお雑煮を作りながら、もう一つ、小さなお皿にかわいいお雑煮を作った。

 

「これ、神様のだから、パパに持っていってちょうだい」

 

私が、汁をこぼさないように、小さなお皿をそろりそろりと持って父に渡すと、父はそれを神様の家の前にお供えし、また「パン!パン!」と柏手を打った。

 

ちょうど、わが家は鳩時計を買ったばかりで、居間の柱にその山小屋のような形の時計がかかっていた。毎時0分と30分には、山小屋の小さな扉がパカッと開いて、鳩が飛び出し、「ポッポー、ポッポー」と、時を告げた。

 

私は鳩時計と同じように、いつか神棚の扉も開いて、中から神様が顔を出すかもしれないと想像し、神棚をじーっと観察していたが、どんなに待っても神様は顔を出さなかった。

 

それから1年後か2年後の大みそか、忘れられない出来事があった。いつものように、家族総出で大掃除をしていた時のことだ。父は熱心に神棚にはたきを掛けていた。すると、ふとした拍子に、はたきの布が白木の軒先に絡みついてしまったらしい。父が振り払おうとした弾みで、神棚から建物が飛び出した。

 

ガターン!と、大きな音がした。見ると、神様の家が床に転がっていて、その拍子に、観音開きの扉がパカッと大きく開いていた。

 

「……!」

 

神様の家の中は、がらんどうだった…。

 

「やっぱり」と「そうだったのか」が混じり合った思いがした。父は照れたようにちょっと笑いながら急いで扉を閉め、それを神棚の元あった場所に置いた。そして、何事もなかったかのように、元旦の朝、お神酒やお灯明を供えて「パン!パン!」と柏手を打った。

 

その後、何年か経ち、家を増改築した時から、わが家には神棚がなくなり、白木の家も見なくなった。けれど、今でもうちは、元旦に家族のお雑煮を作るとき、もう一つ、小さなお雑煮を作る。

 

わが家のお雑煮は、関東風の、鰹出汁のすまし汁仕立て。焼いた角餅に、鶏肉、椎茸、花型の人参、里芋、絹さやというのが基本スタイルで、お餅を焼くのは子どもの頃から、私か弟の役目だった。

 

その角餅を半分のサイズに切ったものと、椎茸、人参、里芋など、鶏肉以外の具を小皿に載せて、汁をかけたものが、神様のお雑煮だ。それを、神棚の代わりに本棚の上にお供えし、「パン!パン!」と柏手を打って祈る。

 

(今まで、わが家をお守りくださってありがとうございました。今年も今まで同様、お守りください)と…。

― おとずれるたびに、いい発見。EPARK ―

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森下典子

森下典子

1956年、神奈川県生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業。「週刊朝日」の名物コラム「デキゴトロジー」のライターを経て、「典奴どすえ」でデビュー。主な著書は『日日是好日 お茶が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫)、『いとしいたべもの』(文春文庫)、『前世への冒険』(光文社 知恵の森文庫、『猫といっしょにいるだけで』(新潮文庫)など。おいしさ さ・え・ら - カジワラ

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