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お饅頭とお月見

お饅頭とお月見

2017.10.28 | 森下典子

今年も、お月見の季節がやってきた。

 

ところで、なぜ、満月は毎月あるのに、「月見」は秋なのか。その理由は、この時期の月が、1年で最も美しいからに他ならない。

 

春は「おぼろ月」と呼ばれるように、空が霞み、月はぼやけて見える。夏は雨が多く、湿度も高くてお月見には適さない。暑さがやっと峠を過ぎ、湿度も低く、空気が澄みわたる秋、月は冴え冴えとして、明るく照る。

 

月見という風習は、そもそも平安時代に中国から伝来し、貴族の間で大流行したものだという。貴族たちは東の空に昇る月を愛でながら歌を詠み、管弦を楽しみ、月が中天にさしかかる頃、今度は庭の池の水面に映る月をめでて、秋の夜長の宴を楽しんだそうだ。

 

江戸時代以降になると、庶民の間で、農耕儀礼としての「お月見」が定着した。それは秋の収穫物を月にお供えし、豊穣を神に感謝する「収穫祭」のようなものだったらしい。

 

実は、「お月見」は二回ある。「十五夜」と、その1か月後の「十三夜」だ。十五夜は旧暦の8月15日で、今年は10月4日がそれにあたる。一方、十三夜は旧暦の9月13日。今年は11月1日だ。十五夜は、別名「芋名月」ともいい、団子と共に里芋や薩摩芋を月に供えた。片や、十三夜は団子の他に、栗や枝豆などを飾ったので、「栗名月」「豆名月」などと呼ばれる。

 

十三夜は、十五夜に次いで美しい月だと言われ、十五夜または十三夜のどちらか一方しか見ないことを「片見月」と呼び、縁起がよくないこととされたそうだ。

 

話題は変わるが、何年か前のこと、ある和菓子屋さんのショーケースの中に、お饅頭が並んでいるのを見た。何の変哲もない白いお饅頭なのだが、皮の真ん中に、小さな焼き印が押してあった。

 

その文様は、風になびくススキであった…。そのシンプルな文様の焼き印を目にした途端、私はたちまち広々とした秋の野原を吹き渡る風を思い出し、虫の音や、青白い月の光を思い起こした。

 

(ああ、もうお月見の季節かぁ~)

 

饅頭の上に押された小さな印の、ススキの文様ひとつで、なんだか、人恋しいような、切ないような気持ちになったのである。

 

思えば、私たちは季節の文様を無数に持っている。たとえば、「花びら」の文様を見れば、桜吹雪を、「流水」の文様を見れば、せせらぎの水音を、「雪の結晶」の文様を見れば、音のない雪原を思い浮かべることができる。それは、日本という季節豊かな国で暮らしているうちに、いつの間にか備わる、心と体の記憶のようなものだ。

 

「文化」とはそういうものなのかもしれない。

 

風になびくススキの焼き印を押したお饅頭を齧ると、中には満月のように丸い栗が入っていて、その栗と餡子の甘さが、実に優しかった。今年の「十五夜」と「十三夜」、甘いお饅頭を味わいながら、お月見をしてはいかが。

― おとずれるたびに、いい発見。EPARK ―

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森下典子

森下典子

1956年、神奈川県生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業。「週刊朝日」の名物コラム「デキゴトロジー」のライターを経て、「典奴どすえ」でデビュー。主な著書は『日日是好日 お茶が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫)、『いとしいたべもの』(文春文庫)、『前世への冒険』(光文社 知恵の森文庫、『猫といっしょにいるだけで』(新潮文庫)など。おいしさ さ・え・ら - カジワラ

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