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母が摘んできた土手の花のおひたし

母が摘んできた土手の花のおひたし

2017.04.06 | 森下典子

ある日、散歩から帰ってきた母が、

 

「これ、今晩、おひたしにしようよ」

 

と、ごわごわした草の束をひとつかみ、流しの桶に入れた。濃い緑色の元気な葉っぱと、黄色い蕾が見えた……。

 

「あ、菜の花」

 

「あそこの土手にいくらでも生えてるわよ。まだ花の咲いてない、柔らかそうなところだけ摘んできたから」

 

母は散歩しながら、ちょくちょく何かを摘んで来る。セリやクレソン、ワラビにヨモギ。いつだったか、横浜港の岸壁から、巨大なワカメを採って帰ってきたこともあった。戦中派の母にとって、地面に生えているものは、二種類しかないらしい。「食べられるもの」と「食べられないもの」である。

 

その晩、大鍋にぐらぐらと湯を沸かし、母が摘んできた菜の花を茹でた。熱湯にサッとくぐらすと、葉の色は目覚めたように鮮やかになった。それをザクザクと切って皿に盛りつけ、鰹節をまぶして、食卓にだした。

 

「はい、土手の花のおひたし」

 

「わぁ、おいしそう」

 

母はすぐに箸を伸ばし、口に入れると、うんうんと頷きながら顎を動かした。

 

「……おいしい!お前も食べてごらんよ」

 

促されて食べてみた。

 

「……」

 

一瞬、太陽の匂いが鼻に抜け、そして、ほのかな苦みと辛みが口に広がった。

 

スーパーや八百屋さんで買う菜の花は、どこかブロッコリーに似た優しい春の味がするのに、母が摘んできた土手の菜の花は、なぜか刺激的な味がした。

 

「やっぱり、自然に生えてるものは違うんだね。野性的な味がするもん」

 

「うん、味に勢いがあるね」

 

私と母は、そんなことを言いながら、そのおひたしを食べた。

 

実は、その土手の花が、菜の花ではなく「西洋からし菜」だったことを知ったのは、最近である。

 

そういえば、菜の花の季節は終わったはずなのに、いつまでも咲いているのが不思議だったし、見れば、ごわごわした葉っぱの付き方が、菜の花とはどこか違う。

 

西洋からし菜は、菜の花と同じアブラナ科の花で、元々、食用にされていたものが野生化して、日本中の土手や河川敷に広がったという。

 

茹でて、おひたしとして食べるのもいいが、漬物にすると、ちょっと高菜に似た味になる。一度、これを漬物にして、密閉容器に入れ、そのまま冷蔵庫に入れておいたら、いつの間にか「高菜の古漬け」のような色になっていたことがある。味見してみたら、辛みに程よい酸味が混じって、無性に、お茶漬けを食べたくなった。

 

飴色になった土手の花の漬物をご飯にのせ、熱いお茶を回しかけてサラサラとかきこむ…。これは、なんとも野性味のある、おつな春の味である。

― おとずれるたびに、いい発見。EPARK ―

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森下典子

森下典子

1956年、神奈川県生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業。「週刊朝日」の名物コラム「デキゴトロジー」のライターを経て、「典奴どすえ」でデビュー。主な著書は『日日是好日 お茶が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫)、『いとしいたべもの』(文春文庫)、『前世への冒険』(光文社 知恵の森文庫、『猫といっしょにいるだけで』(新潮文庫)など。おいしさ さ・え・ら - カジワラ

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